パンクラッティウスの舟 1

パンクラッティウスの舟

2012年8月  オーストリア ケルンテン州 グムンド インターナショナル・ゲストアトリエ・マルタトゥー

パンクラッティウスの舟1

長4.5m 幅0.65m 高 0.9m   木 枝 土 草 苔 樹皮 砂

ドローイング

パンクラッティウスの舟

時は中世。
身分の違う二人が恋に落ちた。
許されぬ恋。

人目を忍んで、パンクラッティウスは
漆黒の闇夜になると舟を出す。
恋人が窓辺に灯すロウソクの明かりだけを頼りに、
舟をこぐ。

ある夜のこと。
突然の嵐が、ロウソクの炎を吹き消した。
方角を見失った、パンクラッティウス。
波に呑まれ、命を落とす。

大破した舟の残骸が見つかった、その場所に、
嘆き悲しむ彼女は、教会を建てた。
グムンドの街の教会に、今も残る哀しい伝説。
それから数百年後の夏。
私はその伝説の地で、舟をつくる。
中世の遺跡を見上げる、その地に。
壊れた舟を。

しかし、この壊れた舟は、もはや悲劇ではない。
パンクラッティウスの熱い情熱も、彼女の激しい絶望も超え、
ここにはただ、静かに『時』が在るだけだ。

時という自然の流れにあっては、
すべては、無常のものなのだから。