時は中世。 身分の違う二人が恋に落ちた。 許されぬ恋。 人目を忍んで、パンクラッティウスは 漆黒の闇夜になると舟を出す。 恋人が窓辺に灯すロウソクの明かりだけを頼りに、 舟をこぐ。 ある夜のこと。 突然の嵐が、ロウソクの炎を吹き消した。 方角を見失った、パンクラッティウス。 波に呑まれ、命を落とす。 大破した舟の残骸が見つかった、その場所に、 嘆き悲しむ彼女は、教会を建てた。 グムンドの街の教会に、今も残る哀しい伝説。 |
それから数百年後の夏。 私はその伝説の地で、舟をつくる。 中世の遺跡を見上げる、その地に。 壊れた舟を。 しかし、この壊れた舟は、もはや悲劇ではない。 パンクラッティウスの熱い情熱も、彼女の激しい絶望も超え、 ここにはただ、静かに『時』が在るだけだ。 時という自然の流れにあっては、 すべては、無常のものなのだから。 |