見張りの丘の舟

見張りの丘の舟

2009年8月  オーストリア ニーダーウーストライヒ州 ガルス・アム・カンプ ヴァハトベルク 野外アートシンポジウム
長 13m 幅 1.5m 高 2.35m   木 枝 土 草 アシ 麦穂 食用油

見張りの丘の舟

3年後



見張りの丘の舟

見張りの丘の舟

数億年前、ここは海底だった。
Wachtberg ― 見張りの丘。

その地名どおり、この地が見守り続けてきた時の流れと、海の記憶。
それを積み荷に、このなだらかな丘で、私は舟をつくる。

冷たい雨の日も、暑い陽射しの日も。
労働は祈りに似て。
私はひとり、舟をつくる。

私の舟、ドロの舟。
  誰も乗れやしない。
  どこへも行けやしない。
役に立たなくては、という呪縛。

壊れていく舟、舟底の割れ目から欠け落ちていく記憶。
すべてをいつまでも握りしめていることはできない。

はかなくうつろいゆくモノたちを、きつく抱きしめ、深く心に沈める。
そして、心の底に触れたら、あとはただ飛び去っていくのを見守ろう。

さあ、重すぎた積み荷をおろし、舟を解き放つときがきた。
もはや、『私の』舟ではなく、『私が今までめんどうをみてきた』舟なのだから。

所有という重荷を解き放てば、ドロの舟でさえ軽々と、
吹きぬける風に乗りそうだ。

あるべきカタチへ、還っていくように。
あるべきところへ、還っていくように。