数億年前、ここは海底だった。 Wachtberg ― 見張りの丘。 その地名どおり、この地が見守り続けてきた時の流れと、海の記憶。 それを積み荷に、このなだらかな丘で、私は舟をつくる。 冷たい雨の日も、暑い陽射しの日も。 労働は祈りに似て。 私はひとり、舟をつくる。 私の舟、ドロの舟。 誰も乗れやしない。 どこへも行けやしない。 役に立たなくては、という呪縛。 壊れていく舟、舟底の割れ目から欠け落ちていく記憶。 すべてをいつまでも握りしめていることはできない。 はかなくうつろいゆくモノたちを、きつく抱きしめ、深く心に沈める。 そして、心の底に触れたら、あとはただ飛び去っていくのを見守ろう。 さあ、重すぎた積み荷をおろし、舟を解き放つときがきた。 もはや、『私の』舟ではなく、『私が今までめんどうをみてきた』舟なのだから。 所有という重荷を解き放てば、ドロの舟でさえ軽々と、 吹きぬける風に乗りそうだ。 あるべきカタチへ、還っていくように。 あるべきところへ、還っていくように。 |